独学で歴史や仏教、哲学、美術史など幅広く学びながら、40年、50年と奈良を撮り続けてきた写真家・入江泰吉さんの写文集「入江泰吉 私の大和路 春夏紀行」の秋冬版です。
クマゼミの鳴き声止まぬ暑い夏が終わると、奈良の人々は、秋を迎える準備を始めます。この時期は、早いところだと1年前から宿泊予約が埋まる特別な季節です。モミジ、イチョウが山やお寺を彩り、紅葉の最盛期は多くの人が訪れます。
奈良で初めて紅葉の季節を迎えた時には、
「同じ日本でこんなにも違うものなのか・・・」
と驚き、感動したのを覚えています。
入江泰吉さんが撮影した秋冬の写真とエッセイが文庫で楽しめるのも魅力です。ちなみに、入江さんの時代は今のようなデジタルカメラはありませんので、フィルムで撮影されています。
”フィルム”と言われてピンとこない人も多いと思いますので簡単に説明をさせていただくと、撮影した写真を記録するためのSDカードやCFカードの役割を果たしていたものがフィルムとなります。撮影枚数は1本で12枚、24枚、36枚と大変少ないものでした。いまでは、SDカード1枚で数千枚ですから驚きですね。(カード容量、撮影条件による)
写真家が業務で使用していたポジフィルムと呼ばれるものは1本1000円(36枚)超えるものがほとんどで、撮影後はフィルムの現像処理(600円前後/本)などコストがかかるものでした。
また使用するフィルム(1本)は、口径3cm、高さが5cmほどの筒状ケースに入っています。今では考えられませんが、常にカメラバックはフィルムでいっぱいで、テント泊をしながらの撮影の時などは、相当量のフィルムを持っていくことになります。
話を戻しまして、
この本は、写真をこれから始める方はもちろん、カメラに興味のない方でも読みやすいものとなっています。エッセイの中に「シャッターチャンスと被写体」というタイトルがあるのですが、専門用語を羅列することなく、わかりやすい言葉で入江さんの思う撮影の条件や形にするための姿勢などが書かれています。
88ページの奈良坂より撮影された当時(1960年)の風景は、日本の美しさが感じられ印象に残る1枚です。「入江泰吉 私の大和路 秋冬紀行」を手に取り、撮影された写真に写る建造物を目当てに、足を運んでみるのもいいかもしれませんね。
入江さんの撮影している姿は、どれも真剣な眼差しで近寄りがたい雰囲気のものがほとんどですが、「入江泰吉記念 奈良市写真美術館」の展示作品出口付近には柔和な笑顔の写真が飾られています。ぜひこちらも確認してみてください!
この記事へのコメントはありません。