今回ご紹介するのは、実際に明治天皇の宮中出仕として仕えた山川三千子氏の著書「女官 明治宮中出仕の記」です。
一般的には、なかなか働くことができませんので、皇居の日常やふるまい等々、たいへん興味深く読み進めることができました。
皇居で働くには、厳しい身辺調査、身上調査をクリアして、家柄もきちんとした人でなければ採用されることはほぼありません。著者の山川三千子氏は、時の宮内大臣だった岩倉具定(いわくら ともさだ)の親戚で、岩倉氏のすすめによるものだったそうです。
※岩倉具定は岩倉具視の第3子で日本の政治家
『女官 明治宮中出仕の記』山川三千子著
「皇居ではたらく」
ネットや新聞、チラシなどで求人広告が出ているわけではないので、打診されたときというのはどのような気持ちになるでしょうね。
初めて仕事に就いた頃というのは、どの職場もたいへんなものですが、皇居も決まり事、特殊な言い回しがかなりあります。苦労も多そうですが、特別な空間、いい意味での緊張感もあり、やりがいもありそうですね。
本著には書かれていませんが、宮中出仕のお給与は国会議員年収よりもお高いとのことです。スゴイですね。
宮中で使われている特殊な言葉の一例ですが、
下記のようなものがあります。
「うきうき」
「おすもじ」
「おしん」
何を意味しているかわかりますか。
答えは、
うきうき ⇒ 白玉
おすもじ ⇒ 寿司
おしん ⇒ 眉毛
です。
「うきうき」というのは、一般的には ” 心がはずむ ” という意味になりますが、皇居では ” 白玉 ” を意味してるなんてビックリしちゃいますね。
「なんかウキウキしちゃう♪」
を訳すと
「なんか白玉しちゃう♪」
になります。
そんなわけないですね。。。(^^;)
他にもいろいろあります。
おひる | お目覚め ご寝室に宿直した権典侍(ごんてんじ)の「おひーる」 というかん高い一声から、皆の活動がはじまる |
おかんばん | 献立表 |
やわやわ | おはぎ |
おしつけ | 毒味 |
もじ | 絹の蚊帳(かや)の布のようなもの |
おとう | 便所 |
おたから | お金 |
御違例 | ご病気 |
おたたさま | 母上 |
おっこん | 酒 |
おかべ | 豆腐 |
” おひる ” は ” お昼 ” ではなく、 ” お目覚め ” 。
” おしつけ = 毒見 ” を意味しています。
毒見は、昔から行われていますが、大膳職の手で整えられたお料理を、当番侍医がおしつけ(毒見)してから天皇、皇后が食すという流れになっています。
将軍や大名などの食事時でも同じようなことがなされていました。
皇室の情報管理
今も昔も天皇、皇后に関する情報は、厳しく管理されているため、基本的に皇室の日常、また印象を悪くするような資料が表に出てくることはほとんどありません。
一般には知られていない、知ることのできない宮中での職務を丁寧な言葉でわかりやすく語ってくれていますので、読みやすいのでおすすめです。
ちなみに宮中の業務で知り得たことは家族、友人にも伝えてはいけないルールになっています。皇居で働いた方の手記が出版(1960年)されるというのは大変めずらしいことなので、天皇制を研究されている方たちにとっても非常に興味深い一級資料になっています。
ここ何年かの皇室(雅子様、秋篠宮家など)のニュースを見ていると、通常であれば、宮内庁がメディアに対してストップをかける内容が多く含まれているような気がしますが、なぜ規制をしないのでしょうね・・・何か思惑があるのでしょうか。ちょっと不思議な感じがします。
天皇のトイレは箱
水洗トイレは、明治時代より西洋式の洋式便座が輸入されはじめています。天皇も陶器製の便座にて用を足していたと想像してしまいますが、実は「箱」なのです。
個人的にはかなり衝撃的でしたが、読み進めて納得です。
常に引き出し式の新しい箱が用意されていて、用を足した後は、地下道のようなところを通って、毎回、専門医のところに持っていくことになっていました。量や質を確認して、健康のチェックをしているのです。
現在はどうなっているのでしょうかね。
医療も進化してますので、方法は変わっているかもしれませんが、毎日の健康チェックは行われていると思います。
お風呂や手紙類、洋服裁縫など
入浴は手桶で運び入れていた
当時は、お湯を別の場所で沸かしていたものを、手桶で運びいれるという作業をしていました。
「お湯を」
と言われると重ねて積んでおいた手桶で湯をつぎ足します。手桶のお湯も冷めてきますから、少し熱めのお湯、ぬるめのお湯などいろいろ準備がなされていたのでしょうね。
手紙類は一度必ず消毒をする
外部から届く手紙類は、かならず消毒所に廻されて、消毒 ⇒ 消毒済 の印が押されたものが持ち込まれるようになっています。
常日頃から体調を維持するために万全の体制ですね。
皇后がお召しになった洋服のお下がり
皇后がお召しになった洋服というのは、洗濯をして新しい反物のようにたたんで、お下がりとして女官などに贈る習わしがあります。
サイズの調整、補修などが必要なときは、スペアの洋服地を使いますが、洋服のスペア生地は、いつも日光の当たる場所にほされています。
これは絹の洋服というものは使っていると色が違ってくるので、始終気を付けながら同じ色になるまで待つのだそうです。
明治天皇ご崩御後は、若干感情的な文章が多く感じられますが、著者・山川氏に対する皇后の嫉妬と思われる言動、女性の立場からみた人間模様、謎めいた文章など想像が膨らみ面白く読み終えることができました。
明治宮廷に興味のある方、この時代に興味のある方なら
『 女官 明治宮中出仕の記 (講談社学術文庫) 』はおススメです。
【本のタイトル】女官 明治宮中出仕の記
【著者】山川三千子
【出版社】講談社学術文庫
【Amazon】女官 明治宮中出仕の記 (講談社学術文庫)
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