【おすすめ本】等伯 安部龍太郎 下巻 レビュー

昨年末にご紹介した「等伯 上巻」に続き、下巻の紹介です。

興味はあるけど、忙しくて読書の時間がなかなか取れないという方は、この「下巻」を先に読んでみるのもオススメ。絵と写真という異なる分野ではありますが、自身もたいへん興味深く読むことができました。

天下一と言われた狩野永徳と絵の勝負をすることになった等伯との緊張感あるやりとりから始まります。

“(引用)

・・・・・省略

「それでは二面の絵を描いて、腕のほどを見せていただきましょうか」

永徳の目にかなったなら採用するというのである。あまりに高飛車な物言いに、信春(等伯)は返事をする気にもなれなかった。

「むろんその分の代価は支払います。ご商売で絵を描いておられるのでしょうから」

永徳は嫌味の念押しをするように、いくら払えばいいかとたずねた。信春は席を蹴って帰ろうかと思ったが、松栄(永徳の父)がすまなそうな顔で目配せをするので目をつむることにした。

「代価はいくらかとおたずねですが、永徳どのならいくら請求されますか」

「私は絵屋ではありません。そんなことを聞かれるとは心外です」

「それは私も同じです。この仕事は松栄さまの弟子として引き受けるのですから」

「ほう。ならばどうすれば描いていただけますか」

「代価を支払っていただけるなら、永徳どのの絵で贖(あがな)っていただきとう存じます」

信春は大きく出た。自分の絵は永徳の絵と同じ値打ちがあると言うも同じだった。

「絵屋のあなたが、この私と」

永徳は唇の端を吊り上げてにやりと笑った。

等伯 下 (文春文庫) 安倍龍太郎

会話のやりとりで、等伯自身が描く絵と狩野永徳のそれとが同じ価値であることを伝える瞬間など、非常に読んでいてハラハラ、ドキドキさせられます。

この絵の勝負を判定するのは、狩野派の弟子8人と信春(等伯)の息子である久蔵の計9人。信春には不利なやり方の行方はいかに・・・。

物語も中盤になると、御所の襖絵を描かせてもらえる話が等伯に持ち込まれます。この仕事を確実に受けることができるよう懇意の女性に力添えを依頼。すると三百両もの大金が必要と伝えられ、受注したい気持ちも強く苦渋の決断をします。三百両と言えば、いまで言うと三千万円にもなるそうです。

そうこうしているうちに、

狩野派も御所の襖絵情報を聞きつけて、あの手この手で横ヤリを入れてきます。

この後、実の兄から襖絵の件でさらに三百両もの追加費用も求められ・・・。

どの世界もお金の動きが感じられるものですが、

長谷川等伯という画に秀でた才能の持ち主でさえも、大金を支払い力添えを依頼していたことに驚かされます。絵で食べていけるようになり、自信もつき、蓄えもでき始めたことで、もう一歩先の世界を見るための投資のような感覚だったのかもしれませんね。

妻や息子を説得し、なんとか工面したものの力及ばず。

等伯が受注していた御所の襖絵は取り消されてしまい、狩野永徳が受注することに。取り消された内情を知った等伯は、怒りをあらわに永徳のいる家に乗り込みます。

自身も潔白ではなかったことを認めつつ、永徳に迫ります。

・・・、

「そうして嘘に嘘を重ねておられるゆえ、あのような虚仮(こけ)おどしの絵しか描けなくなったのじゃ。貴殿の天稟(てんぴん)は誰もが知っておる。もう一度初心にかえり、魂のこもった絵を描いて下され」

天賦の資質を持つ狩野永徳に対し、ここまではっきりとモノ言える人もいなかったのではないか。画に力が無くなってきているにもかかわらず、襖絵の仕事に横やりを入れてきたことに対する怒りは相当なものと感じることができます。

この後、等伯の元になんとも悲しい知らせが届きます。。。

等伯の人間らしい弱さ、葛藤、内面が描かれていて、感情移入できる内容になっています。表紙絵の「松林図屏風(しょうりんずびょうぶ)」は国宝で、東京国立博物館に所蔵されています。展示予定は未定とのこと。。。観賞してみたいものです。

ぜひ「等伯 下巻」をお求めの上、お楽しみください!

おすすめです。

等伯 下巻 安倍龍太郎

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